京都経済同友会について

会員によるマンスリーエッセイ

株式会社 響映  代表取締役社長里中 勝司
第26回

京都国際現代芸術祭について思うこと

株式会社 響映 代表取締役社長
里中 勝司さん

 私は音楽をこよなく愛し、美しいもの、絵画や骨董を愛でることが好きです。

 10代でビートルズに衝撃を受け、30代後半まで音楽といえばロックだけ。クラシックには全く興味がありませんでした。しかし、ある日タルコフスキーの映画「サクリファイス」の冒頭でバッハの「マタイ受難曲」が流れてきたときに、心の中から深い感動と悲しさに襲われ、あらためて聴きなおした時には涙が溢れました。それが古いものを改めて見直す契機となり、今では歌舞伎や能、狂言もたしなむようになりました。

 そして、絵画を鑑賞して深く感動をしたのは、ロンドンのナショナルギャラリーでゴッホの「糸杉のある麦畑」を見た時です。しばらくその絵に魅了され、動くことができなくなりました。ゴッホ最晩年に描かれたこの作品の印象は、彼が狂気に向かう瞬間を表現しているような気がして、見えないものを必死で描こうと苦しんでいるようにも思えます。ゴッホの作品は短い生涯のなかで生前に売れたのはたった一枚だけだったといいます。それでも絵を描き続ける事で後世の私達に素晴らしい作品を残してくれました。美術作品を見に行くきっかけとなったのはゴッホでした。そしてそれ以来、時間が出来ると美術館へ行くようになりました。

 ロンドン、パリ、ローマ、ニューヨークには人類の文化遺産と言われる絵画・彫刻などの美術品が古典から現代美術まで、美術館やギャラリーなど至る所で鑑賞することが出来ます。また、音楽もクラシックからポピュラー音楽までありとあらゆるジャンルが揃い、訪れた先々で鑑賞できます。日本では唯一東京がそのようなことが可能な都市でしょうか。音楽はオペラからライブハウスのジャズまで、上野の美術館では世界の絵画が常設展として展示され、いつ行っても楽しむことが出来ます。映画、芝居に至っては多くの選択肢があります。一方でわが街京都において、そのようなことがはたしてできるのかと考えたとき、京都の現代芸術が置かれている状況の貧困さに失望をします。音楽の公演は少なく、美術館も限られた作品しか公開されていません。しかし、京都には文化遺産と言われる絵画がたくさん遺されています。それも普段は目にすることはなく、何か特別な機会でないと観ることが叶いません。今の京都に神社仏閣以外に見るべきものがあるのかどうか、感動する公演が行われているのかと考えた時、否としか言いようがないのが現状であります。

 京都の産業の一つに観光が欠かせないのであるならば、過去の文化遺産はもちろんの事、それを取り巻く環境を整備することが必要です。そして、過去の文化遺産を浪費するだけではなく、新たに文化を創り後世へ残すために、文化都市京都として現代美術という切り口は欠かせないものと考えます。2014年4月4日、ロンドンのテートモダン館長のクリス・デルコン氏は講演で「パラソフィア京都が京都における伝統の未来形となり、未来における伝統に成り得る。パラソフィア京都には、あらゆる分野の側面を吸い上げる力がある。」と述べられました。そして、「現代芸術は対話の源泉となり、語る事で人の生活は豊かになる。現代芸術は、世代の異なった人との交流を生み出し、この社会システムの垣根を超える。関われば関わるほどその裾野は広く、経済・生活を豊かにしてくれる」と結論づけられました。テートモダンは当初年間100万人の来館を見込んでスタートしましたが、現在年間500万人以上が訪れる美術館になりました。それはイギリス人が現代美術に特に関心があったからではなく、現代芸術こそが世代間の隔てなく鑑賞できる芸術であり、時代の感性をシャープに反映していることの証明でもあると考えます。

 「伝統は革新の連続である」と言われるように、常に時代を先取りする精神性こそが次世代へ継続する何かを遺すことにつながると考えます。『京都へ行けば何か新しく面白いものに出会える』『充分に古い文化も見ることができる』この両方の要素が揃えば、日本からだけでなく世界中から京都を目的地として人々が集まるのではないでしょうか。京都へ来られた観光客が昼は神社仏閣へ、夜は食事やコンサート、演劇やショーなどを楽しみ、日帰りではなく宿泊をして滞在する都市へ変わっていけば、本当の観光振興に成り得ると考えます。そのような好循環こそが京都をパリ、ロンドン、ニューヨークに負けないコンテンツのある都市へと変えていくのです。京都国際現代芸術祭が京都の今の文化状況を変えていく契機となり、訪れた人々が広く楽しめる芸術都市になることを心から望みます。

エッセイ一覧

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